「やれやれ、今年も大変だ」
某社の新卒採用には例年通り、多くの応募があった。
しかし、新卒の採用人数は決まっている。
ゆえに書類審査、グループディスカッション、面接と選考プロセスを経る毎に
それなりに優秀であっても不合格にしなければならない者が大量に出てきてしまう。
その者達にいわゆるお祈りメールというものを送信する事も、人事部の社員達の大切な仕事だった。
──選考結果につき慎重に協議いたしましたところ、
誠に残念ながら貴殿のご期待に沿いかねる結果となりましたことをご連絡申し上げます。
末筆ながら、貴殿の今後のますますのご健勝をお祈り申し上げます。
そしてこの時代では、多くの場合人事部と隣り合う場所に「祈祷部」があった。
仰々しく飾られた祈祷室では、白装束の祈祷師が交代で24時間祈祷を続けていた。
そして別室では事務員達が忙しそうに上司に報告を繰り返していた。
「ID204786、S社の二次選考に合格しました!」
「ようし、いいぞ。祈りが届いたのだな!」
「ID364112、F社の最終面接で落ちてしまいました!」
「なんだと!最終落ちは最も堪えるのだぞ!我らの祈りが足りなかったのだ!
その時間に祈祷していた者を減給にせよ!」
「は、はい」
受験した者にはたいてい6桁程度の受験IDが与えられる。
彼らは祈祷部内ではそのIDで呼ばれ、他社の選考状況を密かにチェックされる。
そして「我が社を受けてくれた子達だから」と影ながら応援され、
他社で内定が取れるようにひたすら「お祈り」されるのだ。
しかし、ある時この極秘のシステムの情報がどこからか漏れ、
就活生の間に噂としてあっという間に広まってしまった。
当然、各社には「お前らの祈りが足りなかったせいで本命の会社に落ちた」
などという苦情の電話及びメールが殺到し、人事部は毎日対応に追われた。
「ちくしょう、我が社に落ちたボンクラ達が、いい気になりやがって」
それまでは元受験者達を温かく見守っていた社員達も一気に態度が変わり、
経費の無駄にしか思われなくなった祈祷部は各社で次々と廃止され、
お祈りメールというのはもはや形だけのものになっていった。
祈祷されなくなった就活生達はますます内定を取れなくなり、
その何年か後、ニュースではこんな言葉が頻繁に聞かれるようになった。
──就職氷河期で、一人当たりの内定数は1を下回り…
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